『赤い風船』&『白い馬』監督:アルベール・ラモリス

心にしみ入る美しい映像と少しのセリフで魔法の映画を創り上げた戦後フランスのアルベール・ラモリス。 子供を主人公にした(監督の息子パスカルは両作品に登場)シンプルなストーリーには、戦争・世の中の善悪のしくみ、そしてその中で戦って行きていく子供達への思いなど、沢山の気持ちが込められている。

日本が将来への不安を抱えてふんばっている今年に、子供達に夢いっぱいに元気に育ってほしいという願いを込めて、子供たち(=いのち)への愛が詰まったこの2つの宝物のような映画を贈ります。—主催者より。


『赤い風船』&『白い馬』

<Introduction>
何度観ても色あせない感動。
1956年に生まれたアルベール・ラモリスの『赤い風船』は、その年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞、その後数々の映画賞に輝き、世代を超え愛され続けてきた。しかし、日本では不朽の名作の地位を得ながらも観る機会が限られ、その存在だけが語り継がれる伝説の映画でもあった。
2007年カンヌ国際映画祭。長年難航してきた権利問題が解決し、デジタルリマスターによって鮮やかに甦った『赤い風船』は、1953年度カンヌ国際映画祭グランプリに輝いた同監督の『白い馬』と共に再び出品される。同じ作品の二度の正式出品自体、映画祭史上初の事件だったが、なにより話題をさらったのはその少しも色あせない映画の力だった。(二度目は監督週間出品)
監督ラモリスの世界は、シンプルなストーリーとわずかな台詞によって構成されているのにも関わらず、映画が語りつくせる限りのものが詰まっている。風船と少年が織り成すたった36分の物語、そして白い馬と少年の絆の中には、喜び、驚き、切なさがあり、人間の豊かな感情と可能性が焼き付けられている。この作品で私たちは、“映画”への愛を呼び覚まされるに違いない。

<赤い風船Story>

1950年代、パリ。少年パスカルは街灯に結ばれた赤い風船を見つける。よじ登って風船を手にすると、どうやらその風船には意思があるらしい。手を放してもパスカルになついて後をついてくる。ある日、パスカルと風船の仲の良さを妬んだいたずらっこ達が追いかけてきて…。

監督・脚本:アルベール・ラモリス/出演:パスカル・ラモリス/フランス/1956年/36分/カラー/フランス語/ 原題:Ballon rouge

<白い馬Story>

南フランス、カマルグ湿地帯。野生の馬を率いるリーダーである“白いたてがみ”は、無理やりに自分たちを統制しようとする人間たちに、必死に対抗していた。しかし、少年フォルコだけは“白いたてがみ”と心を通わせ、強い絆で結ばれていく。

監督・脚本:アルベール・ラモリス/出演:アラン・エムリー他/フランス/1953年/40分/白黒/フランス語/原題:Crin Blanc

■ 監督Profile
アルベール・ラモリス Albert Lamorisse
1922年1月13日、フランスのパリ生まれ。
エコール・デ・ロシュで学んだ後、IDHEC(高等映画学院)の聴講生となり、同時に写真家としての修養を積む。その後写真家としての仕事が注目を集め、フランソワ・テュフェールのアシスタントとなる。監督第一作は、北アフリカのチュニジアのジェルバ島の風物を記録した47年の短篇「ジェルバ」。49年にアラブの少年と彼のロバが繰り広げる冒険を描いた45分の劇映画第一作「小さなロバ、ビム」を発表する。再びジェルバ島で撮影されたこの作品は、完成作は当初商業性が希薄との理由で製作者たちの反応は良くなかった。しかし詩人のジャック・プレヴェールにその魅力を“再発見”され、プレヴェールが新たにコメンタリーを書くことで救われることになる(プレヴェールは後にこの作品のスチル写真と自らの文章を組み合わせた写真絵本を刊行した)。
53年に劇映画第二作『白い馬』を監督。この映画はカンヌ国際映画祭短篇グランプリを始め数々の賞を獲得、一躍ラモリスの名を世界に知らしめた。続いて56年に発表した『赤い風船』もカンヌ映画祭パルム・ドールを始め各種映画賞を総なめにし、ラモリスの名声はより一層高まった。60年には長篇劇映画第一作『素晴らしい風船旅行』の脚本と監督を兼任。振動による画面のブレを引き起こさずにヘリコプターからの空中撮影を可能にする新システム・ヘリヴィジョンを、ラモリス自身が開発・導入した初の映画となった。この作品でラモリスは自らの理想世界を実現するため、画面に写り込んで風景を台なしにしている高速道路を始めとする現代的な設備や建物を特撮で隠してしまう。
62年、再びジャック・プレヴェールをコメンテイターに迎え、『白い馬』のロケ地カマルグで撮影した21分の短篇ドキュメンタリー「野生馬たちの夢想」の監督・脚本・撮影を手掛ける。スローモーションとソフト・フォーカスでカマルグの野生馬たちが浜辺を彷徨し、周囲を取り巻く炎から脱出する様子を幻影と現実を織り交ぜて描いた詩的な作品。65年には長篇劇映画第二作『フィフィ大空をゆく』を発表。警察の追跡から逃げ込んだ先のサーカス一座に雇われた泥棒が、一座の花形娘と恋をするファンタスティック喜劇で、この作品でもヘリヴィジョンが活躍した。
67年には当時の仏文化相アンドレ・マルローからの援助を受け、二本の短篇ドキュメンタリー『パリの空の詩』「ヴェルサイユ」を監督した。63年にはヘリヴィジョンの特許を売り込むため来日したが、商談は成立しなかったという。
70年6月2日、ドキュメンタリー「恋人たちの風」撮影のためイランのテヘラン郊外ハラヤ上空をヘリコプターで飛行中、ヘリコプターの回転翼が電線に触れ、湖に落下するという事故で死去。「恋人たちの風」はラモリスの製作ノートに基づいて未亡人が完成させ、彼の死後8年経った78年に公開された。
また、57年にフランスで発売された有名なボード・ゲーム〈リスク〉は、ラモリスが考案したもの。オリジナルの仏語名称は〈世界征服〉だったが、アメリカのパーカー・ブラザーズがこれに目を付け、〈リスク〉の名で製作・発売したため、この名称が定着した。2~6人用で、42の領土と6つの大陸に分かれたナポレオン時代の世界地図が描かれたボード上でプレイする。プレイヤーたちは軍隊を動かして他のプレイヤーから領土を奪い、最終的にすべての領土をわが物とする(世界征服する)ことで勝利する、というもの。現在コンピュータ・ゲームやビデオ・ゲームにも応用されている。

『 』…日本劇場公開
「 」…日本未公開

日本未公開作品
1947年 「Djerba/ジェルバ」
1948年 「Bim, le petit âne/小さなロバ、ビム」
1962年 「Le songe de chevaux sauvages/野生馬たちの夢想」
1967年 「Versailles/ヴェルサイユ」
1978年 「Le vent des amoureux/恋人たちの風」