『星空の下で』”シングル・ショット・シネマ”で追う〜近代化するインドネシア貧民街に生きる家族

8/9 (sat) 19:30 ~ 野外トレーラー・シアター

 

上映後、監督とスカイプQ&A予定あり

インドネシア&オランダ/2010/インドネシア語/カラー/ドキュメンタリー/111分/日本語&英語字幕上映
監督/シネマトグラフィーレナード・レーテル・ヘルムリッヒ

一家族、三世代、インドネシアのグローバル化の波の中で

1998年、オランダ人監督のレナード・レーテル・ヘルムリッヒはオランダ人の父とインドネシア人の母の生まれ故郷であるインドネシアに、インスピレーションを求めて初めて訪れた。その国に魅了された監督はやがて、ジャカルタの貧民街に住むシャムシュディン家の面々を撮り始める。12年間かけて彼らを追った3部作は、結果的にインドネシアの深い変化を描くことになる。『昼間の目(The Eye of the Day)』ではスハルト大統領の独裁から抜け出そうとしているインドネシアが、『月の形(Shape of the Moon)』ではイスラムの台頭が、また今作の『星空の下で(Position Among the Stars)』では生まれたばかりの民主主義、汚職、経済格差などがシャムシュディン家の日常を通して浮き彫りにされていく。

3部作それぞれが独立しており、他を観ていなくても十分楽しめる構成になっている。今作は、クリスチャンであるルミジャ(シャムシュディン家のおばあさん)が、イスラム化の進むジャカルタを離れ故郷の村に移住しているところから始まる。しかし、彼女の孫(亡くなった息子の娘)である高校生の可愛い女の子タリが手に負えなくなって来たという理由で、ラムジャはもう一人の息子のバクティに街のスラム街に呼び戻されてしまう。価値観や人生の意味を教えてやってほしい、というのだ。民主化の進むジャカルタで育ったタリは、自分の意見をはっきり言うことに慣れており、またそういう教育も受けている。我慢を強いられてきた古い世代にとって、民主主義の概念は聞いてもピンと来ない。この新しい西洋的な世代間のずれは、モスリム教社会では新しい社会問題だ。同時に、成績のよいタリへの家族の期待は大きく、彼女がきっと一家の社会的地位を上げ貧民街から抜け出させてくれると、全員が思っている。タリを娘同然に思って来たバクティは期待ひとしおである。バクティは近所の監査役に選ばれるが、収入は上がらない。そのため相も変わらず、金魚を闘わせたり博打に明け暮れる毎日である。ルミジャはタリに成績優秀で高校を卒業し、大学進学してほしいと望んでいるが、タリの興味は普通のティーンネージャーと同じく、携帯電話や友達だ。一方、バクティと彼の妻の関係は、彼の博打癖や妻への無関心を巡ってどんどん悪化して行く。一家は骨身を削ってタリの大学進学費を工面しようとするが、タリは友達とジャカルタの夜へと繰り出して行く…。

どういうわけか、この貧しくも慎ましい家族は監督とカメラの存在をさほど気にかけないようである。監督自身が開発し特許を持つ「シングルショットシネマ」の手法をふんだんに取り入れ、遊びと温かい気持ちを込めて、ある家族の暮らしを驚くべきディテールで描き出している。編集はジャスパー・ナアジキンスと共同作業で、ハーバード大学のアーティストレジデンスのフェローシップ期間中に行った。描かれる被写体ばかりでなく、『星空の下で』自体も、家族オペレーションである。レナードの姉のヘティ・ナアジキンスはこれまでレナードのすべての作品をプロデュース、また共同編集者のジャスパーはレナードの息子である。

www.positionamongthestars.com

レナード・レーテル・ヘルムリッヒ監督:背景

『約束の楽園』、『昼間の目』、『月の形』、そして本作『星空の下で』で次々と国際的な賞を受賞。また、『灼熱の季節(Burning Season)』(オーストラリア)、『ビューティフル・クレイジー』(台湾)等の作品で撮影監督も務める。2009−2010ハーバード大学レジデンスフェロー。ハーバード−大学、カリフォルニア芸術大学、マサチューセッツ芸術大学などで特別講義の経験を持つ。2011年以降はニューヨーク大学のデュバイ校及びニューヨーク本校で講師を務める。アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、アジア、ヨーロッパなどで、シングルショットシネマのワークショップを多数開講。ニヨン、モントリオールを始め、多くの映画祭でレトロスペクティブが開かれるなど、国際的に認められたドキュメンタリー界の異端児的存在でもある。ニヨン国際ドキュメンタリー映画際のもとディレクターであるジャン・ペレ(Jean Perret)曰く「レナード・レーテル・ヘルムリッヒは現在オランダで最も斬新でクリエイティブな監督の一人だ」。

 

生い立ち:

1959年、オランダのティルバーグ生まれ。家族はその前に、インドネシアのバンドンからオランダに移住していた。1986年、オランダ映画テレビアカデミー、長編映画学科を卒業。処女長編作品は『不死鳥ミステリー(The Phoenic Mystery))。初めてのドキュメンタリー作品『ムービング・オブジェクト(Moving Objects)』(1991)が各国映画祭で幾つかの賞を受賞。

 

インドネシア3部作:

1998年、インスピレーションを求めて、オランダ人の父とインドネシア人の母が生まれた国インドネシアを初めて訪れる。見知らぬ故郷に魅了された彼は、その後幾つものドキュメンタリーをその地で撮ることになる。自らが考案した「シングルショットシネマ」の手法で撮られたこれらの作品は、複雑で魅力あふれるインドネシアが体験しつつある深い変化を、世界中の聴衆に届ける結果になった。ヘルムリッヒの代表作である「インドネシア3部作」は、『昼間の目(The Eye Of the Day)』、『月の形(Shape of the Moon)』、『星空の下で(Position Among the Stars)』の3作品。シリーズを通しての主人公はシャムスッディン家の面々。国を挙げてのイスラム化の波、真新しい民主化の概念、広がる貧富の格差などが、彼らの騒がしい日常を通して生き生きと映し出される。現在、新作『ニシンの刺身(Raw Herring))(トライベッカ映画祭でプレミア)が世界中の映画祭で上映中。

主要作品:

『ニシンの刺身』(Raw Herring) 2013

『星空の下で』(Position Among the Stars) 2010

『約束の楽園』(Promised Paradise) 2006

『月の形』(Shape of the Moon) 2004

『天国からの飛行』(Flight from the Heaven) 2003

『昼間の目』(Eye of the Day) 2001

『ムービング・オブジェクツ』(Moving Objects) 1991

『不死鳥ミステリー』(The Phoenix Mystery) 1990

 

受賞/上映歴(抜粋):

サンダンス映画祭審査員特別賞(アメリカ)

アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀作品賞(オランダ)

アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭オランダ部門大賞(オランダ)

アルバ映画祭審査員大賞(イタリア)

サラソタ映画祭特別審査員賞(アメリカ)

クロアチア国際映画コンペティションZagredbox最優秀映画賞(コロアチア)

シルバードックス映画祭ワシントン特別審査員奨励賞(アメリカ)

ダーバン国際映画祭ドキュメンタリー大賞(南アフリカ)

日本では、これまで山形ドキュメンタリー映画祭での上映のみ。

この作品の上映にあたり藤岡朝子さんに資金協力をしていただきました。ありがとうございました。
作品提供:山形国際ドキュメンタリー映画際