自画像:47KM 2020

いい映画からアジアの隣人を知る:中国編
原題:Self-Portrait: 47 KM 2020

監督:章梦奇(ジャン・モンチー)Zhang Mengqi、ドキュメンタリー、2023年、中国、190分。北京語(英語&日本語字幕付き、バリアフリーではありません)

ジャン・モンチー監督は、過去13年に渡り父の故郷で「47KM」と呼ばれる中国山間部の村を舞台とした連作を、先人たちの記憶のアーカイブとしての作り続けている。本作はその最新作。全作を『自画像』と呼ぶのは、ドキュメンタリー作家として、被写体やそのコミュニティに関わる姿勢は常に主観的なもので、自分と彼らがカメラを通してお互いに変わっていくことへの意識の表れである。実際、47KMシリーズを見ると、最初のうちはよそ者だった彼女が、今では村に移り住み、大変大胆に、映画を通してコミュニティを、村人ひとりひとりを、また自分を変えていくさまが潔い。2020年、コロナ禍にあっても村では例年どおり四季を通じて農作業が繰り広げられる。前作で完成した「青い家」では、子どもたちや村の人々が集い、監督と一緒に体操をしたり、映画を見たり。感染症の噂は耳に届けども、大人も子どもも日々の暮らしに忙しい。皆がカメラに向ける表情は和やかで、監督もカメラももはや共同体の一員になったかのようである。中国三年大飢饉の体験記録収集プロジェクトFolk Memory Projectの一環で制作された「自画像:47KM」シリーズの10作目。ダンサーで振付師の背景を持つモンチー監督の作品は、ひとつひとつ手法が違うのがまた面白いのだが、共通しているのがダンスだ。本作は、3時間を超える大作ながら、全体が映画ダンスのようで、1年の農作業の絵的な質感の良さと相まって、飽きることがない。2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭、優秀賞受賞作品。


監督:章梦奇(ジャン・モンチー):1987年生まれ。映像作家、振付師。呉 文光(ウー・ ウェンガン)が主宰する中国三年大飢饉の体験記録収集プロジェクト「Folk Memory Project(民間記憶計画)」の共同創設メンバー。『自画像』シリーズとして知られる12本のドキュメンタリー映画を制作。YIDFF、シネマ・デュ・レエル、ヴィジョン・デュ・レエルなどの映画祭にて上映される。DMZ国際ドキュメンタリー映画祭、釜山国際映画祭、プント・デ・ヴィスタ映画祭、カルタヘナ・デ・インディアス国際映画祭(FICIC)など複数の映画祭で受賞。

*UPAFスタッフのタハラが、この作品についての批評文を2023年山形国際ドキュメンタリー映画祭のブログサイトに寄稿していますので、よかったらこちらから読みください。